フォント制作、すきま時間に試行錯誤
最近はフォントいじりをしています。
だんだん凝ってきて、ひらがなとカタカナを制作しました。
ひらがなは仮名書道では高野切(古今和歌集を書写した現存最古の写本、伝紀貫之書だが、3人の寄合書とみられ、そのうちの一人は源兼行1023-1074年と特定されている)がお手本とされています。けれど自分には、学生の頃に読み漁った文庫本の活字が最も慣れ親しんだ書体で、なかでも種字彫刻師君塚樹石によるかな書体は、もちろん昭和終わり近くの教科書の書体とは異なるものの、読みやすく読み慣れている文字でした。
君塚樹石による精興舎書体は、東京築地活版製造所の書体や秀英舎の書体とも少し異なっています。築地書体や初期の秀英舎書体ではひらがなの「お」の字形がかなり異なります。君塚樹石の「お」はむしろ現代の「お」や高野切の「お」と同系統の字形なので違和感をあまり感じません。
一方で、新聞紙の書体や、マイコン用ドットフォントの書体にも馴染みがあります。こちらは紙面バランスと視認性を重視した種時彫刻師太佐源三の書体などが元と思いますが、非常に視認性が高く使いやすい反面、高野切のようなかな連綿の美しさはありません。デジタルフォントとしてはこちらの方が理にかなっていると思います。さらに、横書きでは丸ゴシック体などが扱いやすさと視認性を高められ、現在はそちらが主流です。
けれど、自分は明朝体で読みたいのです。
ところがまた、写植全盛の頃の明朝体は、横棒が細すぎ、確かに雑誌で見出しなどに自在に大きい文字でレイアウトした時の見栄えは美しいものの、小さい字の本文書体としては視認性に納得がいきません。
とりわけ小箱では、pilotやPalmのアルファベットが低い解像度の画面でもボールド書体のため視認性が高かったことからも分かるように、細すぎるフォントはぼくには見にくさが先に立ちます。
そういうわけで、自分が読みたい明朝体としては、いわゆる各社のUD明朝が近いのですが、UD明朝体はなぜか縦棒と横棒の太さを同一にしがちです。ゴシックの見やすさを再現しているのでしょうか。
でも明朝体って、黄檗宗万福寺鉄眼禅師一切経の板木の頃から、横棒は少し細いものです。今のUD明朝体にはむしろ違和感を拭えません。
そういうわけで、ないものはつくる、ことになります。
フォントいじりは昔NOKIA用にLinux環境でFontForgeを使ったことがあります。
今回、MacBook AirでGlyphsを導入してみることから始めました。FontForgeの変なバグや不安定さに悩まされることなくいじれます。使いやすいけれど、機能としてはFontForgeの方がやりやすい所も多いです。
参考資料として、昭和15年や16年に刷られた文庫本を見て、iPad mini 6にapple Pencil2で臨書しました。最初Pixel8やGalaxy S23/S24に何かの景品のタッチペンを使って書き始めたのですけれど、筆圧を拾ってくれた方が格段に描きやすいため移行しました。
ひらがなとカタカナだけとはいえ、ずいぶん手間暇時間がかかります。時間はなかなか取れません。ああ、仕事早くやめて遊びたい。
バランス調整は特に時間がかかります。ひらがなは読み慣れていて違和感がなくなればいいのですけれど、カタカナはそうはいきません。高野切のような明確なお手本のないカタカナは、鈴木翠軒による尋常小学の書方手本の美しさが現在の美しさの基盤になっているのか、それ以前のデザインはどうしても違和感が残るので何が完成かわかりません。実際、昔の文庫本を読んでいてもカタカナの書体の違和感はありました。元々漢文読み下し用の注記記号なので美しさより漢文の横の狭い空間で判別できるような記号です。あまり深く考えず、参考資料に似せられればよしとします。
フォントいじりでとりあえずやりたいことができたので満足です。
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