PDA前史 PDA博物館イベント開催に寄せて
明日からPDA 博物館第一回展示会が開かれます。
PDAとは、 Apple Computer社 CEO John Sculleyが、1992年1月CES(the Consumer Electronics Show)でApple Newtonを指して用いた造語で、personal digital assistantの略です。
狭義のPDAはNewtonテクノロジーが具体的に製品化されたMessage PadシリーズとeMateと言えますが、1993年8月に初代Message Padが発売され、最後の製品Message Pad 2100は1997年発売、1998年2月に出荷が打ち切られ終了しました。
PDAという言葉自体は、PIMソフトウェア機能のある手のひらサイズのコンピュータを広く指してその後も使われるようになりました。
「PDA博物館」と言うとき、Apple Computer社のNewton(Message PadシリーズとeMate)を並べればそれで充分とは思われません。むしろ実際にはPalmがPDAの代表じゃないか、とか、WindowsCEデバイスがないのは片手落ちだ、と感じるのではないかと思います。
WIKIPEDIA英語版のPersonal digital assistantの項目では、Popular consumer PDAsに「Apple Inc. iPod touch, iPhone」や「BlackBerry」が挙がり、Discontinued PDAsには「Atari Portfolio」や「Psion」の名前があります。
広義のPDAを把握しようとするとき、Apple Newtonとそれに似たものを並べていき、年代順に並べた結果、色々感ずる点があります。
ここでは、古い方、Apple Newtonに至る歴史を振り返り、PDA前史に触れてみます。
1939年 世界初のコンピュータABC(Atanasoff-Berry Computer)試作機完成
1946年 世界初のコンピュータとして広く知られるENIACがペンシルバニア大学で公開
1963年 世界初真空管式電卓 英Sumlock-Comptometer社 Anita Mark8発売
1964年 6月 早川電機 オールトランジスタ式電卓 CS-10A発売
1966年 7月 日本計算器販売 格安電卓Busicom 161発売、298,000円
1967年 10月 世界初の数式記憶型電子式卓上計算機カシオAL-1000
1971年 3月 Intel 4004出荷
1973年 6月 シャープ 初の液晶表示装置電卓 EL-805
PDAの歴史としては、世界初のコンピュータより、世界初の電子式卓上計算機の方が重要でしょう。personal digital assistantという言葉には携帯機器という意味の単語が含まれませんが、狭義のPDAであるApple NewtonはApple Computer社パーソナルコンピュータMacintoshと家電機器との間を埋める製品群と位置づけられ、携帯型液晶タブレット端末の形で最初に製品化されました。
そういう意味では、初の液晶表示装置電卓、シャープEL-805も外せません。
さらに重要なのは、電卓戦争を仕掛けたビジコム社の発注による、世界初のマイクロコンピュータintel社4004です。これが1971年です。むしろここから歴史を始めた方が妥当かもしれません。
1974年 1月 世界初携帯可能プログラム可能電卓 HP-65 12月 Altair 8800(世界初の個人向けコンピュータキット) 1977年 6月 Apple][(世界初個人向け完成品コンピュータ大量生産・販売) 1978年 10月 日立ベーシックマスターMB-6880 12月 シャープ MZ-80K 1979年 9月 NEC PC-8001
1974年に携帯型プログラム可能電卓HP-65が出てきます。ここは大事なポイントです。
同年、世界初の個人向けコンピュータキットAltair 8800発売、1977年には個人向け完成品コンピュータAppleIIが世界初大量生産・大量販売されます。パーソナルコンピュータはここで始まっています。日本でも、翌1987年日立ベーシックマスターMB-6880が発売されます。8ビットマイコン、パーソナルコンピュータの時代が始まりました。
1980年 3月 シャープ ポケットコンピュータPC-1210/1211発売 Motolora MC68000出荷
この年は記録されてしかるべきです。
Motolora MC68000が出荷されました。初代MacintoshやSONY NEWSワークステーションでも採用され、SONY PalmTopでも68000は使われています。そしてpilot1000/pilot5000で採用されたのも68000コアのDragonBallでした。
シャープからは「ポケコン」PC-1210が発売になります。
PDAの始祖はまだですが、ポケコンは一つのエポックメイキングな出来事です。プログラム可能な電卓ではなく、フルキーボードを備えて、汎用プログラム言語を搭載し、コンピュータを名乗っている携帯機器の登場です。ユーザーがセルフ開発できる手のひらサイズのコンピュータです。
1981年 8月 IBM The PC 11月 シャープ ポケットコンピュータPC-1500/1501 1982年 2月 シャープ ポケットコンピュータPC-1250/1251/1255 カシオ ポケットコンピュータPB-100/PB-200/FX-700P 7月 エプソン ハンドヘルドコンピュータHC-20発売 1983年 5月 カシオ データバンク PF-3000 発売 シャープ ポケットコンピュータPC-1245,PC-1401/1402 カシオ ポケットコンピュータPB-300/FX-802P,PB-700/PB-770
ついに、電子手帳が登場しました。1983年、カシオ計算機が発売したデータバンクPF-3000です。アルファベットと数字の入力が可能で英数字961文字記憶できました。TEL、メモ、ファイルの3つのモードを持ち、電話番号が最大253データ、メモ最大253データ、ファイル最大14個を記憶でき、暗証番号や預金口座番号などはキーワードで保護するシークレット機能を搭載していました。
PDAは要するに電子手帳だ、とするならカシオデータバンクPF-3000がその始まりです。ただ、personal digital assistantという言葉は、カシオデータバンクPF-3000のような、高機能電卓の一種として設計され単に英数字を記憶できるだけの製品との違いを際立たせ、コンピュータ技術による個人用の助手なのだと言っているように感じます。
1984年 1月 Apple Computer Macintosh 128K 8月 IBM PC AT Psion Organizer I 1985年 シャープ電子メモ POCKET DB PA-300 英Acorn Computers ARM1(Acorn RISC Machine)開発 1986年 4月 Psion Organizer II CM、II XP
カシオデータバンクPF-3000に相当する製品をシャープが出したのは、翌々年になります。PA-300は2KB、PA-301は4KBの記憶容量です。電話帳機能があり、ローマ字カナ変換機能で、英数カナの名前、会社名と電話番号を記憶し、名前を入れて表示する機能がありました。
1987年 1月 シャープ漢字電子手帳PA-7000 Knowledge Navigator concept byJohn Sculley
翌1987年、シャープから漢字電子手帳PA-7000が発売になります。
ソフトウェアICカードで機能拡張できるようになっています。
PA-7000に始まるシャープの電子手帳からザウルスにかけては、Zaurus博物館がよくまとまっていて分かりやすいです。
この年のトピックとして、Knowledge Navigatorという未来の予言が含まれるApple Computer社CEO John Sculleyの著書 「Odyssey」Pepsi to Apple が挙げられます。
Knowledge Navigatorは後にコンセプトビデオが作られました。
なぜコンピュータ技術による高機能電子手帳製品を指して「personal digital assistant」という言葉を使ったかは、Knowledge Navigatorコンセプトが元々あったからでしょう。
1988年 9月 SHARP Wizard OZ-7000 Psion Organizer II LZ 1989年 6月 Atari Portfolio(DIP Operating System 2.11,505g) 7月 東芝 DynaBook J-3100SS発売(2.7kg) 9月 Poqet Computer Corp Poqet PC(450g) 9月 Psion Mc200(1.95kg,EPOC16)、Mc400(EPOC16)、Mc600(DOS) 10月 セイコーエプソン PC-286NOTE発売 10月 シャープ電子システム手帳PA-8500,PA-7500 11月 NEC PC-9801N
PDA登場まであと一歩です。1980年代後半は電子手帳が色々出てきて、シャープは海外でWizardシリーズを発売、イギリスではPsion社が初のOrganizer(電子手帳)を発売しています。
1989年はノートPCとPalmtopPCの始まりの年です。Atari PortfolioはDIP OSという505gの互換DOSマシンです。Poqet Computer社のPoqet PCはCGA画面のIBM PC互換機で、450gのポケットコンピュータです。Poqet PC社はやがて富士通に買収され、OASYS Pocketシリーズにその面影を見ることができます。
世界初のノートパソコン発売もこの年です。東芝 DynaBook J-3100SSは2.7kgもありました。Apple Computer社のノートは1991年のMacintosh PowerBook 100になってからです。
シャープの電子手帳は、ICカードによる追加ソフトの提供という仕組みのため、1988年9月から1990年10月に渡る長期間仕様を変えず、仕様を外部に公開してソフトウェアの拡充に努めていました。
1990年 5月 Windows3.0英語版 8月 SONY Palmtop PTC-500発売 PIMソフト搭載1.3Kg198,000円 10月 NEC PC-98HA 10月 シャープハイパー電子システム手帳PA-9500(DB-Z)
PDAの始まりは、本稿では1990年SONY PalmTop PTC-500としておきたいと思います。
「1980年、コンピュータ手のひらにのる。」というキャッチコピーで始まるSONY Palmtopのカタログでは、「PIM(Personal Information Management)ソフトウェア」という言葉が初めて使われました。従来の電子手帳と比べて、何やらハイカラな言葉が使われているのがソニーっぽいなと思ったものです。
SONY PalmTop PTC-500は68HC000(8MHz)MPUのタブレット型ペンコンピュータです。すでにAtari PortfolioやPoqet PCが前年に発売されていますが、これらはIBM PC互換機の小型版で、個人情報管理用のソフトウェアが最初から使えるようになっているわけではありません。
その点で、コンピュータと言っても、ソフトは別でDOSのみの汎用PCとは異なっています。
内蔵の「パームノート」はスケジューラ「アクション」、住所録「コネクション」、文字だけでなく手書きの絵も入れらえるメモ帳「レポート」の三種の基本画面があり、それぞれのリンクも可能な統合PIMソフトウェアでした。
ペン入力による文字自動認識、ダイヤラー、ボイスメモ、電卓、世界時計、アラーム機能が標準搭載され、汎用PCではなくパーソナルな情報管理のためのコンピュータでした。
重さ1.3kg、値段198000円。翌年にかけ、PTC-550やPTC-300/PTC-310と軽量化、廉価版を発売していきました。PTC-300は435g、65000円です。画面のアイコンやPine Projectの隠しロゴ、スクリーンセーバーなど、遊びと夢のあるマシンです。
動作の遅さはデータを蓄積していくとさらにひどくなり、実用性の高いマシンとは言いにくい部分があります。
多機能電卓側から高付加価値商品へと進化した電子手帳、先進的なデスクトップコンピュータ側(SONY NEWSやApple Macintosh)から発想されたPalmTopやNewtonは、ずいぶん値段や大きさが違うものの、カタログの言葉で言う機能では、接近していきます。
PCの世界ではWindows3.0が発売になった年です。
1991年 1月 Windows3.0日本語版 3月 電子システム手帳PA-8800, PA-X1 3月 富士通 OASYS pocket 5月 HP 95LX 9月 Linux Version 0.01 Psion HC RANGE Psion Series 3(EPOC16) 京セラ リファロ Refalo KX-1601 発売 SONY PalmTop Computer PTC-300 SHARP PC-3000(Portfolio2) Apple Computer Macintosh PowerBook 100(2.3kg) シャープハイパー電子システム手帳PA-9550(DB-Z) Advanced RISC Machines(後のARM Ltd) ARM6リリース
翌年、Appleからノート型のMacintosh PowerBook 100が発売になりました。製造はSONYです。
シャープの電子手帳は進化していきます。実のところ、初代Newton MessagePadの製造は、シャープによるものです。製造にとどまらず、Newtonテクノロジーは92年の時点では、シャープにもApple Computer社からライセンス供与され、シャープ製品の開発にNewtonを利用し、シャープからもNewtonの技術をベースとする製品が市場へ投入される予定でした。この幻のガリレオは実現せず、シャープは日本市場にNewtonではなくザウルスを投入することになります。
1991年、HP95LXが発売されました。HP電卓のビジネス用系列に含まれ、PC用表計算ソフトLotus 1-2-3が動く電卓で、中身は手のひらに乗るIBM PC互換機です。Atari PortfolioやPoqet PCと異なるのは、約310gに軽量化されただけではありません。MS-DOS v3.22の上にシステムマネージャというタスクスイッチできるシェルをかぶせており、ブルーの内蔵アプリケーション起動キーを押すと瞬時に切り替わり、組み込みアプリケーションソフトはROM上で直接動作するようにメモリ管理されていました。
ファイルマネージャ,データ通信,予定表,電話帳,メモエディター,Lotus 1-2-3,HP金融電卓の7つのブルーキーがありました。
HP電卓特有の固めで間の離れたキーボードは、電卓らしく10キーと、QWERTYキーとブルーキーがありました。
液晶画面は240x128ドットで、後のHP100/200LXの640x200ドットCGA画面ほどではありませんでしたが、単3電池2本で駆動するIBM PC-XT互換アーキテクチャのPalmtop PCでした。
この年は、OASYS pocketというワープロも発売になっています。ただし、DOSも動くOASYS pocket3は3年後です。
英Psion社からは、Series 3が出ました。液晶画面は240x80ドットで、Series 3a以降の480x160ほどではありませんでしたが、EPOC16 OSによる軽快な動作とタスクスイッチ、見やすい手帳のような画面のAgendaなど使いやすい内蔵アプリケーションソフト、打ちやすいアイソレーション式フルキーボードと8つの内蔵アプリケーション起動キーがあります。カード型データベース,エディタ,Agenda,アラーム,世界時計,電卓などのアプリケーションが内蔵されています。
NECの16bit CPU V30Hでさくさく動き、動作は安定しています。Psion Solid State Disksという独自形式のメモリカードに対応していて、純正だけでなくサードパーティーのソフトもメモリカードで提供されました。
265gでHP95LXより軽く薄型です。広義のPDAで、実用性の高い最初の製品と言って良いと思います。
1992年 4月 Windows3.1英語版 5月 富士通 OASYS pocket2 7月 シャープ ハイパー電子マネージメント手帳 PV-F1 発売 12月 シャープハイパー電子システム手帳PA-9600(DB-Z2)PA-9700(DB-Z3) Tidalwave ME-386 Linux Ver. 0.96 1993年 5月 HP100LX 5月 ThinkPad 220 5月 Windows3.1日本語版 8月 Apple Newton Message Pad 9月 Psion Series3a 10月 シャープ ザウルスPI-3000 発売 Macintosh PowerBook Duo 210 Linux Ver. 0.99
1993年、Apple Computer社からNewtonの最初の製品MessagePadが発売されました。この製品を指して「PDA」という言葉が造られました。
この年、既にHP100LXが発売になっています。画面解像度は640x200、IBM PC-XTのCGA互換です。内蔵ソフトにはDatabaseやNotetaker, cc:Mail, SystemMacrosなどが追加され、OSはMS-DOS5.0、CPUもHP95LXのクロック5.37MHzのV20H相当からクロック7.918387MHzのi80186相当に強化され、翌年のHP200LXと基本的に同一のスペックとなっています。
英Psion社からは画面解像度が縦横それぞれ倍になり、スプレッドシート機能も追加されたSeries3aが発売されました。
「PDA」はNewton Message Padの宣伝文句、個人情報管理が実用的にできるてのひらコンピュータはヨーロッパでは「Organizer」Psion Series3a、USAでは「Palmtop PC」HP100LXというのが、この年です。
そして日本では、シャープから「液晶ペンコム」初代ザウルスPI-3000が発売になります。
1994年 5月 富士通 OASYS Pocket3発売 5月 シャープ ザウルス PI-4000/PI-4000FX 発売 6月 HP 200LX発売 9月 日本HP 200LX F1216A #ABJ発売 10月 HP200LX日本語化キット発売 11月 シャープ アクセスザウルス PI-5000/PI-5000FX/PI-5000DA 発売 SONY Magic Link PIC-1000発表
オアポケ3の登場です。SGML形式のPIMデータ、DOSに降りてコマンドラインで使えます。
IBM PC互換機ではないため、OASYS上のDOSで動作可能なMS-DOS汎用ソフトくらいしか使えませんでしたが、やがてVZエディタが移植されました。Poqet Computer社Poqet PCの技術を買い取った富士通の製品でしたが、PIMソフトウェアやDOSは付加機能で、基本的にワープロ製品として販売されました。
HPからはHP200LXが発売されます。HP95LXの日本語化に始まり、HP100LXもユーザーの手によって日本語化されました。そしてこの年、メーカーではなくユーザーによって開発された「HP 200LX日本語化キット」が発売になります。経緯については、HP 200LX日本語化キット開発秘話に詳しいです。
1995年 1月 シャープ ザウルス PI-4500 発売 6月 日本IBM チップカード TC-100 発売 8月 NEC VT-1 社内販売 8月 シャープ アクセスザウルス PI-6000/PI-6000FX 発売 10月 Palm Top PC 110 11月 HP OmniGo 100 カシオ計算機 情報ペン RX-10 発売 シャープ 液晶パッド WiZ PA-Z700 発売
後のモバイルギアの元となったVT-1がNEC社内のみで販売されました。翌年に発売されたモバイルギアによって、それまでモービルと読まれていた単語はモバイルと読まれるようになりました。
1996年 2月 シャープ アクセスザウルス PI-7000 発売 3月 pilot1000/pilot5000 4月 NEC モバイルギア MC-K1 発売 4月 NEC モバイルギア MC-P1 発売 4月 東芝 Libretto 20 発売 5月 シャープ 液晶ペンコム カラーザウルス MI-10/MI-10DC 発売 9月 Psion Series 3c 9月 Psion Siena 10月 Apple Newton Message Pad 2000 10月 J-Suitesリリース 11月18日 CASSIO CASSIOPEIA A-10/A-11 11月 シャープ アクセスザウルス PI-6500 発売 11月 NEC モバイルギア MC-MK11/MK12 発売 カシオ計算機 情報ペン RX-20 発売 ソニー MagicLink PIC-2100J 発表 HP OmniGo 700LX Apple Message Pad 130 発売
この年、Pilot1000/5000が登場し、WindowsCEマシン、英語版カシオペアが発売されます。ついに役者が揃いました。
この先は、PDA 博物館第一回展示会パネルディスカッションにて。
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